Doctor’s health log(内科医の視点)

総合病院の内科医師が実際の体験を通して健康回復・維持・増進の方法を紹介する雑記ブログ。

【自宅待機は無給】医師には適用されなかった、過労死を防ぐための「働き方改革」【明らかな過労死レベル/束縛/精神崩壊/鈍感力の大切さ】。

世間では、長時間の時間外労働が

過労死につながっていると問題になっています。

 

そして「働き方改革」が導入されました。

 

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しかし現実には

「1860時間という長時間の時間外労働を認める」とか

「当直明けに休む際に有給を使いなさい」とか

「医師の働いてる時間を管理します(しかしごく一部だけ)」

などと医師の労働環境は変わらないか、むしろ悪化しています。

 

 

ニュースなどで医師が反対しているのを耳にしたことがあると思いますが、

どうして医師がこんなにも反論しているのか、

改革に期待を持てないと感じているのか、

不思議に思っている一般の方も多いと思います。

 

「医師なんだから働けよ。税金使っているんだから。」

などという意見もあるでしょう。

 

今回はこの「不適切な時間外労働の認定(働き方改革)」

与える影響について、医師の現状をもとに書いていきます。

 

 

 

過労死レベルの時間外労働

 

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一般の会社の時間外労働は

1年に360時間(月に45時間)までとされています。

 

特別な事情があっても

1年に720時間(複数月なら月80時間、1月なら100時間未満)までです。

 

しかし医師の時間外労働時間は、

「1年に1860時間(月に180時間)まで認める」とされました。

 

これだけでも「そんな馬鹿な」と考えるようなところですが、

中には「医師だから仕方がない」

「現状を維持するのには、仕方がない」

と言ったような意見が多くみられました。

 

つまり、 

過労死が問題になって、その現状を変えるための働き方改革が、

「現状を維持するための働き方改革」になっています。

 

そして「明らかに過労死レベルを超えた時間外労働を認めた」ことで、

国は医師に「医療の現状を守るために、医師は過労死してもやむを得ない」

ということを公の場で認めた状況になっています。

 

 

「時間外労働は、年間1860時間まで」の問題点

 

この言葉には、さらに次のような問題があります。

 

1)医師は、時間外労働を正確に申告できないことがある

2)この時間外労働に、自宅待機の時間は含まれていない

     (つまり、仕事として認定されていない)

 

などです。

 

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1)については、具体的には次のような場合があります。

・病院が時間外労働を認めない。

・病院が認めても上司が認めない。

・給料が正確に払われないために働く環境を悪化させてまで

    申告しようと考えない

 

場合などがあります。

 

2)の自宅待機については、

そもそも仕事として認定されていないことが多いです。

そのため、給料も基本支払われません(この点においては無給です)

 

しかし現実には、呼ばれたらすぐに病院にかけつけられるように

生活時間と場所が束縛されます。

 

例えば、夜恋人とディナーに行こうと誘われても

呼び出されたら、そこで終了。

恋人との仲が気まずくなるでしょう。

 

散髪や歯医者に行くのも、途中で呼び出されたら大変。

髪の毛が左側だけ散髪された状態で病院にかけつけないと行けない事態は

避けたいです。

 

勉強のために講演会に行くのも大変です。

「行くだけ行って何も聞けずに帰ってきた。」

「講演会の参加料金だけ払って帰ってきた。」

何ていうことは現実にあります。

 

また呼ばれなかったとしても、常に仕事のことが頭から離れない。

「いつ呼ばれるのだろう」というストレスを常に抱えて過ごすので、

精神的にも束縛された状態と言えます。

 

さらに日によっては自宅で待機なのに、頻繁に呼び出されたりして

当直の先生より遥かに忙しいこともあります。

 

 

待機時間も含めて考えた場合の時間外労働

 

場所によっては1年中ほぼ1人で

待機をしなくてはならないこともあります。

私にもありました。

 

この場合、

時間外労働が1年に980時間(平均で月90時間、1日3時間)だとしても、

待機時間が1年で3240時間(平均で月270時間、1日9時間)。

 

2人で待機していても1年で1600時間くらいの待機時間があります。

 

これは時間だけみても

過労死レベルを遥かに超えているのではないでしょうか。

 

つまり、「時間外労働を1年に1860時間まで認める」ということは

この状況を正式に公の場で認めてしまうということなのです。

 

このような過労死を遥かに超えた労働時間が認められるようならば

具体的な時間を認めるようにしない方が

まだ良いのではないでしょうか。

 

 

実際に精神的に崩壊しそうになることはある

 

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医師の仕事になれていない頃に1人で待機をしている時は、

頻繁に鳴り響く仕事用の携帯に精神がおかしくなりそうで、

その携帯を実際にどこかに投げ捨てようと考えたこともありました。

 

医師の長期的な健康のためにも、

このあたりも考慮した「働き方改革」が必要ではないかと思います。

 

当面の対策としては、自宅待機の時は

電話がかかって来ない限りは「仕事のことを忘れる」

というような「鈍感力を鍛える」ことが大切と考えます。

 

真面目な方や患者さんによっては、

「そのような不真面目な対応をされては困る。

もっと危機感を持ってやって欲しい。」

と言われるかもしれません。

 

しかしそのような要求に応えても

医師が倒れた時には誰も助けてくれません。

そして残念ながら病気から回復しても

以前と全く同じレベルまで回復するのは困難です。

 

そのため、もしこのような理不尽な社会制度のもと、

医師自身が健康を失いそうになった場合、

「実際に健康を失う前に仕事から離れる」ことをお勧めします。

 

その場は多くの人に迷惑をかけるかもしれませんが、

健康を保って仕事を続ける方が

最終的には多くの患者さんを診察・治療することができ、

より多くの患者さんの幸せにつながります。

 

 

最後に

 

過労死を防ぐために、現状を変えていこうとして始めた

「働き方改革」。

 

しかし少なくとも医療の世界においては

現状を維持するために「時間外労働を強要しよう」という

形になっています。

 

その上、医師の時間外労働には

自宅待機の時間が盛り込まれていないなど、

多くの面で「公には認められていない+αの時間外労働」があります。

 

自宅待機でも実際にはかなりの労力を消耗しており、

それはボディーブローとして医師のメンタルに突き刺さっています。

また当直の仕事と同等かそれ以上の労働を強いられることもあります。

 

そのため、現状の仕事環境の中では、

医師が継続的に仕事を続けていくためには「鈍感力」が必要になっており、

現状とその力の大切さを知って頂ければと思います。

 

また「働き方改革」については、現状のような過労死レベルの内容ではなく、

自宅待機も時間外労働と認定し、

現場の医師の健康が長期にわたって保たれるような本当の意味での改革を

進めて行ってもらえることを期待しています。

 

そのようにすることが

現状の医療を維持し、かつ改善することにつながると考えます。

 

 

 

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