病院に行って診察室に入るのって何故か緊張しないですか?
あるいは
緊張を通り越して怖いと思っている方もいるかもしれません。
診察室に入ると、そこには普段あまり接したことのない
白い服を来た何やら難しい顔をした人(医者)がいます。
もちろん優しそうで笑顔の人もいます。
ただ一見優しそうに見える人も
実のところは何を考えているかわからず、不安ですよね。
しかも自分の体のことについて考えているから、なお不安。
このような時、
「もし医者の頭の中を開けて見ることができたら、
気持ちが楽になるのに」と思ったことがあるでしょう。
「いや、そんな失礼なこと考えたことはないですよ。」
という初めから最後まで医者を信頼して下さる
神様のような患者さんも中にはおられます。
いずれの患者さんも、医師が自分の話を聞きながら
どのうようなことを考えているかを知っていると
少し気が楽になるのではないでしょうか。
親近感も湧いてくるかもしれません。
すると、もっと気楽に聞きたいことを聞いて
言いたいことを言えるようになるでしょう。
医師と患者さんの距離が縮まり、
コミュニケーションが円滑になるように期待を込めて
今回は診察時に医師がどのようなこと考えて
検査や治療の決断を行っているかについて書いていきます。
- 入室されてから目の前に座るまで
- 診察の初めに質問することは決まっている
- どの病気の可能性が高いかを判断していく
- 病気の鑑別に必要な部分の身体診察をする
- 疾患を絞るために必要なら、検査を行う
- 検査はできるだけ患者さんへの負担が少ないようにする
- 患者さんにとってメリットがある可能性が高い治療を選ぶ
- エビデンスが微妙な場合、より患者さんのメリットを意識する
- 診察の最後に再度受診をすすめることが多い
- 最後に
入室されてから目の前に座るまで
患者さんが診察室に入ってから目の前に座るまでは、
患者さんの何となく全体を見ています。
その中で、歩き方・表情・付き添いの有無や、
付き添いの人との関係性を五感で捉えています。
色々な方がいると思いますが、私の場合はじっくり見るよりパッと見ます。
言い換えると、第一印象を重視しています。
もちろん、好き嫌いを判断するものではありません。
病状の様子と程度をみるために最初に大きく全体の印象をつかむのが目的です。
経験が全くないとわからないのですが、
ある程度患者さんを見ていると
この第一印象が一番大事に思えるようになってきます。
実際に、問診から精査へと進んで行っても
結局はこの第一印象で全ての治療方針は決まっていた、
ということをよく経験します。
そのため、私はこの第一印象を非常に大切にしています。
診察の初めに質問することは決まっている
「本日は、いつ頃から、どのような症状で、
どのような理由で受診されましたか」
人によって多少異なるかもしれませんが、
医師のはじめの言葉はまずこの言葉から始まります。
全く軸を決めないで話を聞くと、本当に全く関係ないことから始まってしまい
いつまでも終わらないので、
上記のような軸を決めて話してもらいます。
すると自然と病気に必要な情報が入ってきて
現病歴(現在の受診に至った患者さんの経過)の大部分が完成します。
この時、医師は患者さんからの話をきくと同時に
候補となる病気を頭の中にいくつか浮かべています。
救急であれば、特に緊急性の高いものを優先的に
頭の中で順番に並べていきます。
どの病気の可能性が高いかを判断していく
次に、どの疾患の可能性が高いかを判断していきます。
患者さんに語って頂いた現病歴だけでは判断ができない場合、
あるいはもっと病気を絞れる可能性が高い場合は
追加で質問をしていきます。
それは患者さんが自覚していたけれど気に留めていなかった症状であったり、
症状がないことの確認だったりします。
または過去にかかった病気(既往歴)や
飲んでいる薬の内容(内服歴)も重要になってきます。
このようにして新しく得られた情報で、
どの病気の可能性が高くて
どの病気の可能性が低いかを判断していきます。
病気の鑑別に必要な部分の身体診察をする
患者さんからの話と、追加の質問で候補となる病気が絞られたら、
さらに絞るために必要な部分の体の診察(身体診察)を行います。
体の診察とは、病気に関係すると考えられる部分を
見たり、聴診器で聴いたり、触ったり、押したりして
体の反応をみることです。
これによりさらに病気を絞っていきます。
ただ体の診察によって病気を全く絞れないことが明らかな場合は
先に検査を行うこともあります。
疾患を絞るために必要なら、検査を行う
患者さんとの話(問診)及び、体の診察(身体診察)終了した
この段階で、病気がおおよそ絞れていることが理想です。
その場合は、結果を確認するために検査を行うことになります。
一方で検査を行うことによって治療内容や
その後の方針に関わらないようであれば、
検査を行わないことで治療を行うこともあります。
治療を行わずに経過観察とすることもあります。
しかし診断が絞りきれないず、検査を行うことによって
治療内容やその後の方針が変わる可能性が高いのであれば、
必ず検査を行います。
検査はできるだけ患者さんへの負担が少ないようにする
一方で、検査が多すぎるとこの段階で疲れてしまって治療する頃には
病院が嫌いになっていることも少なくありません。
もちろん病態によっては必要な検査が多くなってしまうこともありますが、
「検査だけして治療はできなかった」という状態になっては
目も当てられません。
医師は普段から、出来るだけ少ない検査で
患者さんへの負担が軽いものから優先的に検査を行うことを
考えています。
そのため、
治療内容やその後の方針が変わらないような検査をしないように
注意しています。
実は、
100%病気を診断できる検査も、100%病気でないことを診断する検査も
少なくとも現時点では存在しません。
そのため、以下のような条件を満たす場合はそれ以上の検査を行わずに
治療を開始します。
・ある病気である確率がかなり高い(それなりに高い)
・追加検査がかえって患者さんにデメリットが出る確率が高い
・治療を開始するするデメリットが少ない。
また、 以下の場合は経過観察とします。
・緊急性がある病気である可能性はかなり低い
・追加検査がかえって患者さんにデメリットが出る確率が高い
・治療を開始してもメリットが少ない。
あるいはデメリットが多い。
患者さんにとってメリットがある可能性が高い治療を選ぶ
病気が確定しても、たとえ一般的に行われている治療でも
(検査と同じで)100%効果のある治療は存在しません。
ある患者さんに効果があるから、
別の患者さんにも効果があるとは限らないです。
ある論文に80%効果がある治療と書かれていたとします。
しかし目の前の患者さんは同じ病気でも少し様相が違ったり、
体があまり元気でなかったりすると、
その半分も効かないことがあります。
つまり、論文に書かれているようなエビデンスをそのまま使用するのではなく、
「目の前の患者さんに、どの程度のメリットを与えることができそうか」
という患者さんごとの状況を考慮して
メリットがある可能性の高い治療を勧めています。
その際にエビデンスがあるものの方が勧める側も安心します。
なぜなら効果がある確率がどの程度あるかわかっているからです。
実際に明らかなエビデンスがあるものは
患者さんにとってもメリットがある可能性は高いです。
エビデンスが微妙な場合、より患者さんのメリットを意識する
しかし中にはエビデンスがあると言われていても
微妙なメリットしかないものもあります。
例えば、高齢の患者さんや、全身の状態が悪い患者さんは、
このような微妙なメリットしかない治療では
治療がかえって毒になることがあります。
そのため、これから行う治療が本当に患者さんのメリットになるか
より慎重に検討することが必要です。
この場合、西洋医学だけにこだわらず、
漢方をはじめ効果があると考えられるものは全て検討し、
それらを駆使するのが最善の方法であると考えます。
だからと言って、すぐに民間療法に走るのはお勧めしません。
診察の最後に再度受診をすすめることが多い
病院に行って薬が処方されると、
「症状が悪くなったら、早めに来て下さい」
「薬を飲みきっても症状が続くようなら来て下さい」
「症状なくても来て下さい」
と言われることが多いですよね?
それは診断・治療はあくまでその確率が高いということで行われるのであって、
診断が外れていることもあるし、
診断があたっていても治療に効果がないこともあるからです。
このようなとき経過をみる
あるいは予想外の経過が起こった時に再度病院に来てもらうことによって
診断や治療をより確実なものにすることができます。
最後に
患者さんが入室された瞬間から
どのように考えて
どのような理由で検査を行い、
どのような基準で治療方針を決めるかについて紹介しました。
現在の医学では、根本治療が可能な唯一絶対の治療がありません。
そのために
治療の効果が出やすいように対象となる疾患を絞り(診断)、
副作用が出にくいように
色々な手段を駆使して全力でサポートしていくこと(治療)
を考えています。
このように医師が治療を行う時には
エビデンス、作用機序、経験、患者さんの状態などを全て含めて
目の前の患者さんに治療がどの程度効くかを「確率」で考えています。
この話をきいて、逆に不安になったかもしれません。
しかし貴方の目の前にいる医師は諦めずに
貴方にとって一番メリットがあると考えられる方法を
貴方の話を聴き検査をしながら必死になって考えています。
この記事を通して
今後の病院受診の不安や緊張、医療不信が少しでも改善されれば幸いです。