Doctor’s health log(内科医の視点)

総合病院の内科医師が実際の体験を通して健康回復・維持・増進の方法を紹介する雑記ブログ。

【働き方改革】医師の労働状況悪化は「医師だけの問題ではない」。改革をしっかり遂行するメリットと具体的なやり方。

 

 

働き方改革で現状は良くなった?

 

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働き方改革で長時間労働を無くし、社員の健康と暮らしを守る試みがされていますが、

具体的に状況は良くなったでしょうか?

 

「早く家に帰れるようになった」

「休みが多く取れるようになり、趣味を続けられるようになった」

「副業を堂々とできるようになった」

 

などと以前より状況が良くなった方がいます。

 

 

一方で、

「給料が下がって生活が苦しくなった」

「急に家にいるようになっても家族に相手にされず、妻や家族と喧嘩が増えた」

など前より状況が悪くなった方もおられます。

 

医師の労働状況については、どうでしょうか。

 

 

現在の働き方改革で医師の労動状況は悪化している

 

働き方改革で長時間労働が制限される中、

何故か医師については例外が適用されました。

 

その結果、

逆に長時間労働が正式に認められる形となり(残業上限は年1860時間)

勤務時間も厳しく管理され、

以前より状況は悪化したところも多いと感じています。

 

医師の労働状況が悪化すると、

体調が良くない状態で患者さんを診察することになるので

結局は安全に検査や治療ができなくなり、

患者さん及びその他の医療スタッフの負担に繋がります。

 

また医師が健康を害して働けなくなることも多くなり、

その結果、医師不足になります。

 

医師を募集してもそのようなところに就職するのは

敬遠されるため、

その後の十分な医師を確保しづらくなります。

 

また活動可能な医師の絶対数が減りますから、

不足を補うために人材育成費が必要になり、

そのための費用として税金が投入されます。

そのため、国民全体の負担にも繋がります。

 

このような結果になるため、

働き方改革による医師の労働状況の悪化は

「医師だけの問題ではない」と考えます。

 

そこで今回は、医師の働き方改革について

その具体的な方法とメリットを紹介していきたいと思います。

 

 

 医師の労動状況

 

通常の勤務時間は病院によって異なりますが、午前6時頃〜8時から開始。

午後5時〜10時に終了となることが多いです。

 

所属する科によっても異なりますが、

大学病院や総合病院など大きな病院になればなるほど

勤務時間は長い傾向にあります。

 

ただし、小さな病院に行けば行くほど医師が少なく、

待機の日数や当直回数が多くなる傾向があります。

 

場所によっては医師が2人しかおらず、1年の半分を待機している、

つまり1年(24時間✖️️️365日)の半分が勤務時間になっていることもあります。

 

これに当直がプラスされ、

慢性的な疲労が蓄積されているのが現状です。

 

そのため、健康状態を崩しやすく、

場所によっては病気になっても

仕事を休めない状況になっています。

 

 

医師の働き方改革

 

「それでは医師の労働時間を短縮することなんて不可能ではないか。」

と考えられる方は多いでしょう。

 

しかしこれは今のシステムだから不可能なのであって、

仕事の適切な再配分などを行うことによる

新しいシステムを構築すれば可能と考えます。

 

以下に具体的に示します。

 

 

主治医だけでなく、チームで患者さんをみる

担当患者さんを決めて24時間・365日いつでも

主治医が対応する(主治医制)。

 

この方が患者さんが安心できるので

患者さんにとってはメリットである

と考える医療者・患者さんがまだまだ多いです。

 

しかし考えてみて下さい。

「貴方は休みなしで働けますか?」

「仮に働けたとしても、常に適切な対応を行えますか?」

 

ほとんどの人の答えは、「No」だと思います。

 

人間は疲れを感じる生き物であり、

病気や怪我をするときもあります。

また出張などの諸事情で病院を不在にすることもあります。

 

寝不足や疲れている時には、もちろん判断は鈍ります。

失敗も多くなります。

また病気になりやすく、怪我もしやすくなります。

 

病院を不在にする時には、

結局他の医師に頼らざるを得ず、

普段から関わっていない分、

その患者さんのことが上手く把握できず、

危険な状態にさせてしまうことが多くなります。

 

これに対して、普段からチームで患者さん全員を見ていると、

患者さんの情報を把握しやすく、

意見交換もスムーズになり、

良い治療を行いやすくなります。

 

突然の病気や怪我、主張などで不在の時に

普段とあまり変わらないレベルの治療が可能となり、

結果的には患者さんの安全をより確保できることになります。

 

また医師も体調を崩しにくくなり、

患者さんにより安定して

医療を供給できるようになります。

 

さらに言えば、

このような無理のない体制を築くと、人が集まりやすくなり、

マンパワーが確保できます。

 

その結果、より余裕を持って診療をできるようになり、

患者さんにとってもより安全で迅速な対応につながるため

メリットと考えます。

 

医師だけしかできない仕事に集中できる環境にする

 

医師の仕事は本来、「患者さんを診ること」にあります。

 

しかし近年、保険のことや裁判が多くなり、

書類を記載する仕事(デスクワーク)が大量に増えました。

その結果、患者さんを診ることに集中できなくなっています。

 

 

この対策は2つあると考えます。

 

・不要な記載項目や書類を廃止する(必要なものだけにする)

・医師以外でできる部分は、医師以外の人に書類を作成してもらう 

 

不要な記載項目や書類の廃止については

皆様のご理解をはじめ、裁判減らすことや法律を見直すことにも関係しているので

これ以上のことはここでの記載は行いません。

 

本当に必要な書類の記載のについては、

医師クラークを導入するなどして医師以外で記載できる部分は全て

記載してもらえるようにするのが効率的・経済的です。

 

なぜなら

その方が医師は限られた時間を効率的に診療に当てることができ

患者さんの検査・治療に集中することができます。

結果的にはより質の高い診療が可能になり、

人件費も抑えられるからです。

 

当直後の勤務は代休として休めるようにする

今だに多くの病院で当直後に

連続して勤務をしなければいけない状況が続いています。 

 

当直が朝から晩まで丸1日であったとすると、

次の日も日中働いた場合、

夜もあまり寝れない状況での36時間連続勤務ということが

普通に起きています。

 

病気の患者さんを治療するという行為(特に重症の患者さんの場合)は、

いつでも事故を起こしうる飛行機をなんとか無事に着陸させる行為に

似ています。

 

そのような時に、パイロットが前の日からあまり寝れずに

飛行機を飛ばしていたら

どう思われますか?

 

搭乗者は身の危険を感じると思いますし、

パイロットもいつかは倒れてしまうのではないかと

感じると思います。

 

結局はそれを行なった会社に責任となり、

貴重な人材を失って地域の人は医療を受けづらくなります。

 

また同僚の負担が増え、

さらに多くの医師に疲労が蓄積されるようになり、

さらに多くのミスが起こるようになります。

病気になる人も増えるでしょう。

 

結果的には当直後の勤務は休めるようにしていた方が

安全面でも経済面でも良いのです。

 

今は「年に5日は休んで下さい」ということを言われるようになりました。

しかしようやく得た5日を当直明けの勤務に使えば

結局は年から年中ほぼ休みが取れないのと同じになり、

仕事のストレスは貯まり続けるでしょう。

 

そのため、多くの医師は結局

有給を使ってまで当直後の勤務を休むことはしません。

 

本来は病院と患者さんの安全のためであり、

休みを削って働いているので

これらの観点からも代休とすべきと考えます。

 

 

時間外の病状説明は緊急時のみとする

 

上記のように医師は緊急事態に応じるべき時間外にも待機しています。

この目的は患者さんの救命率をあげるためです。

 

しかし緊急事態でない患者さんの病状説明を

患者さんや医療スタッフから

時間外に求められることがあります。

 

すると疲労が蓄積し、

段々と緊急事態に対応することができなくなります。

 

このため、閉鎖された救急科も実際あります。

「急性期ではもう働けません」と言って

第一線を退いた方もおられます。

 

結局は残ったスタッフの負担がさらに増え、

安全な医療が行えなくなり、受け入れられる患者さんの数も減る。

救命率も低下するという結果になっています。

 

実際に時間外の緊急事以外の病状説明は保留にしたり、

医師以外の医療スタッフでも可能です。

 

そのようにして緊急時に集中できるような環境にすることによって

患者の救命率を改善させることができ、

結果的には患者さんの安全もより確保できるようになります。

 

 

最後に

 

以上より、医師の働き方改革は

医療スタッフはもちろん、

患者さんの安全面とも経済面とも密接に関係しています。

 

しかし現状は長時間労働が認められただけの状況に終わっています。

 

今後はこの改革が無事に良い方向に遂行され、

より安全で健康的な社会になるように願っています。

 

 

 

 

 

 

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