Doctor’s health log(内科医の視点)

総合病院の内科医師が実際の体験を通して健康回復・維持・増進の方法を紹介する雑記ブログ。

オプジーボは高価だが抗がん剤より副作用が少なく、薬が合う人には年単位の生存期間延長が期待できる。

 

 

オプジーボ」について皆さん、どう思われていますか?

 

「値段が高すぎるので使うべきでない」

オプジーボの副作用が出ると取り返しがつかない」

「副作用が11人に出て、そのうちの1人が脳の機能障害で亡くなった」

オプジーボによる死亡は、人災だ」

などと言われ、

 

オプジーボに対するイメージはあまり良くないかもしれません。

 

 

一方で、

 

オプジーボを使うと、どれくらい効果があるのか」

「どれくらいの数の患者に使われたのか」

「どのくらいの頻度で副作用が出るのか(何人いる中の11人なのか)」

「亡くなるようなケースはどれくらいあるのか」

「実際に使用されているということは、メリットがあるということではないのか」

「私の知り合いは、末期に近い状態からガンが消えました」

など、

 

オプジーボに対する興味と期待の声もあります。

 

メディアでの副作用に対する発表を契機に最近問題になっており、

今回はオプジーボに対して

その効果と副作用を中心に書いていこうと思います。

 

  

オプジーボが対象のがん

 

オプジーボはがんによって正常に働けなくなった免疫細胞(T細胞)を

上手く働けるようにする薬ですが、

 

どのようながんに使えることになっているか

御存知でしょうか? 

 

以前は、

悪性黒色腫(メラノーマ)

・(非小細胞)肺がん

 

が「オプジーボの投与が可能ながん」でした。

 

しかし現在は治療対象となるがんの種類が増えています。

 

 

現在では上記に加えて、

・腎細胞がん

・ホジキンリンパ腫

・頭頸部がん

胃がん

・悪性胸膜中皮腫

などがあります(参照:免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ])。

 

オプジーボの日本における使用状況

オプジーボは実際どのくらい使用されているでしょうか?

2014年に悪性黒色腫に対して初めて国内で承認されて、

2017年7月31日の時点で多くの患者さんに使用されています。

 

具体的な推定使用者数は、

 

悪性黒色腫     2224人

・肺がん      15699人

・腎細胞癌      1465人

・ホジキンリンパ腫   107人

 ・頭頸部癌       739人

 

計 20234人です。

 

2017年4月〜2018年3月は

約17000人に新規にオプジーボが投与されたと報告されています。

それからさらに1年経過しているので、

今までの総数は6万人くらいにはなっているのではないでしょうか。

 

 

2017年からは 胃がんに対しても適用になった

 

悪性黒色腫や肺がんについては既に高い効果を示しているので、

今回は、2017年に適応になった「胃がん」を中心に

オプジーボの副作用と治療効果について書いていきます。

 

 

一般の抗がん剤に比べて、副作用が生じる頻度は低い

 

現在、胃がんでは切除不能の段階で

1つ目、2つ目の抗がん剤の効果がなくなった状態で

使用することが許可されています。

 

そのため、1つ目や2つ目の抗がん剤を投与する時よりも

状態が悪いことが多いです。

 

しかし実際にオプジーボを投与していると、

1つ目・2つ目の時の抗がん剤より

圧倒的に副作用が出にくい印象です。

 

印象と言われても、あまり信用できないと思われた方もいると思います。

それでは、科学的な証拠としてはどうでしょうか?

 

日本・韓国・台湾の共同試験で

オプジーボ群(330例)とプラセボ群(163例)で

オプジーボの副作用と効果を比較検討した臨床試験(RCT)があります。

 

これでは投与中止に至るような副作用は、

オプジーボ群で2.7%(9例)、プラセボ群で2.5%(4例)でした。

つまり、オプジーボを投与したことで治療中止になった割合が

統計学的に増えた訳ではありませんでした。

 

一方で、死亡に至った副作用として、

オプジーボ群では心停止、急性肝炎、肺炎などが各0.3%(1例)、

プラセボ群で消化管穿孔及び突然死が各0.6%ありました。

 

これはオプジーボで劇的には重篤な副作用が増えないこと、

オプジーボを使用しない場合はかえって病気が進行して死に至ることがあること、

を意味していると思います。

 

以上より、

オプジーボは副作用が危険だから、使うべきではない」

という主張は、論理的に正しくはありません。

 

 

オプジーボで気をつけないといけない副作用

 

オプジーボは免疫を担当する細胞に作用するため、

免疫反応の促進や過剰にようる免疫関連の副作用が出ることがあります。

そして免疫は体全体で起こっている反応なので、

副作用も体のいろんな場所で起こり得ます。

 

ただし副作用の頻度が少ないからと言って、

気をつけなくて良い訳ではありません。

 

具体的には以下のような副作用が起こることがあります。

命に関わるような重症の副作用が起こる頻度を()内に示します

 

間質性肺炎(0.6%)

・大腸炎(0.9%)

・1型糖尿病(0.9%)

・肝炎(1.2%)

甲状腺機能障害(0%)

・神経障害(0%)

・腎障害(0%)

・皮膚障害(0%)

・静脈血栓症(0%)

など。

 

肺がんや悪性黒色腫に投与したケースでは、

下垂体炎などの内分泌障害の報告もあります。

 

今回メディアでは、脳の障害が出現して死亡されたとのことでしたが、

下垂体のことについて書かれていたので、

この内分泌障害のことではないかと思います。

 

いずれにせよ

このくらいの頻度であれば、

一般的な抗がん剤でも起こっています。

 

そして重要なのは

他の治療では効果が見込めない状態の患者さんに使用して

このレベルの副作用で済んでいることと考えます。

 

以上より、副作用の点からは

オプジーボの使用は許容されると考えます。 

 

 

オプジーボの治療効果 

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胃がんに対するオプジーボの効果ですが、

前述の日本・韓国・台湾の共同試験で

生存期間の平均値は、オプジーボ群で5.26ヶ月、プラセボ群で4.14ヶ月でした。

 

「1ヶ月しか変わらないの?」

と思う方もいるかもしれません。

 

しかし残された時間が約4ヶ月という時に、

「あなたは平均的にはさらに1ヶ月長く生きれます」と言われたら、

薬の使用希望される方は多いのではないでしょうか。

 

残された時間が短い時の生存期間の延長は1ヶ月であったとしても

その重みは健康に生きている人の何倍もの価値があると思います。

 

またこれはあくまで平均値です。

オプジーボの特徴として、薬の効果がある人には投与終了後も効き続け、

年単位で生存が可能になることがよくあります。

 

そのため、平均の生存期間は1ヶ月しか違いがありませんでしたが、

平均で1年生きられる人の割合(1年生存率)が

オプジーボ群で26.2%、プラセボ群で10.9%と

大きな差がありました。

 

このことから、

オプジーボは他の治療で効果がなくなった患者さんに対して

高い効果をもたらすことがあり、

治療効果の点からも

使用することを否定はできないと思います。

 

現在は胃がんガイドラインでもその使用が推奨されています。

 

今後の解決すべき点

 

副作用・薬の有効性について書いてきましたが、

薬が高すぎる!

「このままでは医療崩壊する」

と言った批判もあるでしょう。

 

これは今後の改善点です。

 

オプジーボの使用経験を踏まえて、

どのような患者さんに薬が効きやすいかを

判断できるようにしていく試みが今進められています。

 

薬の使用自体を否定する根拠にはならないでしょう。

 

 

最後に

 

今回の副作用に対するメディアの発表を契機に

オプジーボに対する一般の方の見解の相違があり、

その裏には正しい情報が不足している背景があることを知りました。

 

まだ新しく適用になったばかりの「がん」もあるため、

治療効果や副作用についての最終的な結論が出た訳ではありませんが、

 

とりあえず情報を共有する必要があると考えました。

 

実際に臨床の現場では

副作用の頻度は高くはなく、

他に治療手段がなくなった状態においても薬が合えば、

そこから年単位の生存ができるような効果が見られています。

 

 

この度の記事が、

患者さんとその御家族にとって今後の治療の、

その他の方にとっては今後の議論の

一助になれば幸いです。

 

 

 

 

 

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