喫煙をすると、肺がんになりやすくなるとよく言われますが、
喫煙しても肺がんにならない人がいます。
それらを見て、
「たばこを吸っても肺がんになるとは限らない。
それなら自分は大丈夫だ。」と。
本当に大丈夫でしょうか?
今回は発癌物質に曝露されるとどうして肺がんになるのか、
喫煙はどのくらい肺がんになる可能性を上げるのか、
また喫煙以外の原因となるものについて紹介します。
- どうして肺がんになるのか
- 喫煙によって肺がんになるリスクの程度
- 禁煙によって、肺がんになるリスクが減少する程度
- 受動喫煙によって、肺がんになりやすくなる程度
- 喫煙以外でも、肺がんになりやすくなる
- 最後に
どうして肺がんになるのか
一般的にがんには慢性の炎症が関係していると言われています。
慢性の炎症を起こして細胞が自分を修復する際にミスが起き、
その結果DNAが傷ついて、がん細胞が増えていくと考えられています。
つまり、慢性の炎症を起こすような物質は、
がんの原因になり得ると考えられます。
肺がんの場合は、喫煙が危険因子として有名です。
これはタバコの煙の中に約4000の化合物が含まれており、
そのうち60を超える発癌性物質(慢性炎症を起こすような物質)が
含まれているからです。
喫煙によって肺がんになるリスクの程度
1912年に喫煙が肺がんの原因として初めて報告されて以降、
複数の大規模な疫学研究がされており、その結果から
現在では喫煙が肺がんの原因であることは疑いの余地がありません。
また教科書によっては特定の組織型のみが喫煙と関連していると記載されていますが、
肺がんの主な組織型全て(小細胞癌、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌)で
喫煙との関連が証明されています。
(引用:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11165392)
報告ごとに違いがありますが、非喫煙者と比較して、
長期喫煙者は20〜50倍も肺癌になりやすいとされています。
非喫煙者が生涯で肺癌になる確率が1%であるのに対して、
重喫煙者(ヘビースモーカー)では約30%も肺癌になると報告されています。
中でも喫煙期間が肺癌の発症と最も強い関係があると言われていますが、
1日あたりの喫煙本数も、喫煙年数と同様に
肺癌になるリスクを増加させることが明らかになっています。
(引用:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15213107)
禁煙によって、肺がんになるリスクが減少する程度
イギリスで実施された大規模コホート研究で
禁煙による肺がんのリスク減少効果が明らかになりました。
この研究によると、
男性が75歳まで喫煙を続けた場合の肺がんになる リスクが16%。
そのリスクが60歳、50歳、40歳、30歳で禁煙すると、
それぞれ10%、6%、3%、2%まで減少すると報告されました。
(引用:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10926586)
これは禁煙することでどの年齢においても
肺がんになりにくくする効果があり、
早く禁煙すればするほど禁煙による効果が高いことを示しています。
受動喫煙によって、肺がんになりやすくなる程度
喫煙者の配偶者を対象とした複数の疫学研究では、
受動喫煙によって1.2〜1.3倍肺がんになりやすくなったと
報告されています。
(引用:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27511987)
喫煙以外でも、肺がんになりやすくなる
数多くの研究から、肺がんには喫煙が最も関係しています。
しかし喫煙以外にも、肺がんになりやすくする物質があります。
それもそのはず。
タバコだけが肺に慢性炎症を起こす訳ではないからです。
具体的には、
石綿(アスベスト)、PM2.5やPM10などの粒子状物質による大気汚染、
家庭の暖房・調理による室内環境汚染、ラドン222などが報告されています。
以下に各々について、もう少し詳しく書いていきます。
石綿(アスベスト)による肺がん発症リスク
石綿とは、天然の繊維状珪酸塩鉱物の総称であり、
アスベストのことです。
その優れた耐熱性・耐薬品性・絶縁性・防音性などにより、
建築資材から家庭用品まで広い用途で使用されてきました。
飛散しやすいため、職業性の曝露のみならず、
工場周囲の住民などまでも曝露することで問題となりました。
石綿曝露によって中皮腫になることは有名ですが、
肺がんについても明らかな関係があることが報告されています。
2004年から日本では石綿の使用が禁止されましたが、
石綿に曝露してから肺がんを発症するまでには
15〜40年と長い潜伏期間があり、まだまだ注意が必要です。
また喫煙も行なっていると
お互いに肺がんになりやすくなるように作用するため、
この点からも禁煙は大事です。
アメリカからの報告では、
石綿曝露と喫煙の肺がん発症リスクはそれぞれ5.2倍、10.9倍。
いずれもある人では53.2倍までリスクが跳ね上がるとされています。
大気汚染(PM2.5、PM10など)による肺がんリスクの増加
2002年に世界の8%の肺がんは微粒子によると推測されました。
2013年に実施された欧州9カ国を対象とする共同研究で、
肺がんと大気汚染の関連が決定づけられました。
具体的には、PM10の濃度が10μg/m3増加すると1.22倍、
PM2.5の濃度が5μg/m3すると1.18倍、
肺がんにかかりやすくなると報告されました。
(引用:http://www.thelancet.com/retrieve/pii/S1470204513702791)
これは日本で報告されたものとほぼ一致する内容でした。
(引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/21/2/21_JE20100098/_article)
また肺がんの中でも特に腺癌という組織型との関連が強く、
腺癌に限るとPM10、PM2.5の肺がんリスクは、
それぞれ1.51倍、1.55倍と増加すると報告されました。
(引用:http://www.thelancet.com/retrieve/pii/S1470204513702791)
さらに非喫煙者のみを対象とした大きなコホート研究では、
先進国で5〜35μg/m3のPM2.5濃度において
PM2.5濃度が10μg/m3上昇すると、
肺がん死亡が15〜27%増加したと報告されました。
(引用:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=turner+mc+am+j+respir2011)
この結果から、タバコを吸わない人は受動喫煙だけでなく、
大気汚染にも注意した方が良いことがわかります。
家庭の暖房・調理による室内環境汚染の影響
家庭の暖房・調理は大気汚染の原因になるとともに、
室内環境汚染の原因にもなると言われています。
またこの室内環境汚染によって肺がんになりやすくなるとされています。
中国のデータですが、石炭による暖房・調理で
4.9倍肺がんになりやすくなったと報告されています。
日本においては石炭の利用は稀ですが、
この事実自体は知っておいた方が良いでしょう。
ラドン222によっても肺がん発症リスクが増加する
ウランが崩壊する過程で放出されるラドン222という物質ですが、
肺がんの発症リスクを増加するとされています。
これは鉱山労働者において過剰な肺がん発症があったこと、
その後の動物実験から発癌性が証明されたことが理由です。
一般環境においては花崗岩などの石造りの家屋や地下室などで
濃度が高いとされています。
そのため、ラドンの吸入による体内被曝量が
世界平均(年間)1.2mSvなのに対して日本平均は0.4mSvと低く、
幸い日本ではこれによって肺がんが発症する可能性は低いとされています。
ただしアメリカでは肺がんの15%がラドン吸入によるとされており、
喫煙に次ぐ予防可能な原因として認識されています。
最後に
肺がんは喫煙による影響が最も強いとされており、
予防のためには禁煙が最も重要です。
しかも早期であればあるほど、効果が高い。
また石綿などの要因も加わると肺がん発症のリスクが飛躍的に高まるので、
可能な限り早期の禁煙をお勧めします。
大気汚染や室内環境汚染は、タバコを吸わない、
社会の全ての人々にとってリスクとなります。
そのためにも、
資源の無駄遣いを減らし、環境に優しい資源の開発・再利用により
大気汚染を極力減らすことができる社会にしていく必要があると
考えます。