入院したら暴れたり、認知症が進行したように見えることが多い
お爺さんやお婆さんが具合が悪くて入院したけれど、
入院後に急に暴れ出して病院から連絡が来たりしたことはないですか?
逆に病院に行ってみたら、記憶力が低下していて
身のまわりのことも上手く出来ないようになっていて
認知症が進行しているように見えて驚いたことはないですか?
実際に見ると、別人のように変わっていることもあり、
驚かれると思います。
しかしこれは別に特別なことではないのです。
高齢者や具合が悪い人が入院すると
入院後に暴れ出したり、記憶が途切れることが実はよくあります。
これを医療の現場では「せん妄」と呼んでいます。
せん妄とその原因
せん妄は、突然発生して変動する精神機能の障害で、通常は回復可能です。
注意力及び思考力の低下、見当識障害、意識レベルの変動を特徴とします。
原因のほとんどは、
身体疾患や薬(ベンゾジアゼピン系の睡眠薬、麻薬など)
によるとされています。
せん妄の状況と、その具体的な対処方法
入院患者のほとんどは、体の具合が悪くなって入院されます。
しかし薬をはじめとした治療が効くまでには時間がかかるので
改善されまでにせん妄となることが多いです。
原因自体が改善されるまでは時間がかかるので、
原因治療をしつつ、せん妄自体に対応することになります。
せん妄への対応とは、具体的にはまずは以下のようなことから始めます。
・点滴を必要最小限にする。点滴をできるだけ日中で終わらせる。
・日中はしっかり起きてもらう。
・見知った人(御家族など)に付き添ってもらう。
・点滴の管をできるだけ患者の目につかない場所にする。
・入院期間を最小限にする。
などに注意します。
それによってできるだけ時間・人・場所などの見当識を保てるようにします。
それでも対応困難な時には、本人及び周囲の人に危険が及ぶため、
薬や物理的な身体抑制を検討します。
・薬としては抗精神病薬をはじめに使います。
⚠️はじめに通常の睡眠薬を使うと、せん妄がひどくなって
手がつけられなくなることがあります。
人によっては点滴棒を奪って振り回して暴れる方もいます。
・物理的な方法としては、ミトンや四肢を縛って柵に固定したりします。
⚠️これによってかえってせん妄が強くなることもあるので、
慎重に状況を判断してから行うかどうか決めています。
また「がん」などのようにどんどん原因の疾患がひどくなり
治療が効果を及ぼさない時など、
原因となっている疾患の治療自体が困難なケースもあります。
その時は症状や状況に応じて薬を調整し、
意識があること自体が苦痛となるようであれば、
眠り薬を使用して症状の緩和に努めることが多いです。
認知症は自宅に戻ってから判断する
上記のようなことが起こるため、
入院中に認知症と診断することは正確性に欠けます。
これは医療者でも知っている人は少ないのですが
認知症と診断された、
あるいは進行したと判断されて精神科に紹介された人のほとんどが
せん妄(あるいはうつ病)であったと
1年前に日本緩和医療学会でも報告されています。
最後に
入院した後に暴れること。
これはよくあることです。
認知症が進んだように見えること
これもよくあることです。
いずれもせん妄によることが多いです。
(2番目のものについては、うつ病が原因のこともあります)
基本的には原因疾患が改善すること
あるいは元いた場所に戻ることによって改善します。
しかし原因疾患の改善が難しかったり、
退院するべきタイミングで退院できなかったりすると、
薬を大量に投与することになって意識レベルが低下して
活動量が落ちたり、誤嚥性肺炎を発症して
動けなくなってくることがあります。
そのため、入院させたらもう大丈夫ではなく
入院してからが本当の勝負という感覚で、
本人・御家族とともにそのデメリットを最小限にできるように
治療を行っています。
これからも上記のような医療情報をより多くの人に知って頂き、
より良い医療環境を作っていきたいと思います。
この情報がその一助になれば幸いです。