Doctor’s health log(内科医の視点)

総合病院の内科医師が実際の体験を通して健康回復・維持・増進の方法を紹介する雑記ブログ。

【高齢者・認知症】入院中に誤嚥性肺炎を繰り返し、食事が食べられないなら、それは寿命。積極的な治療は延命治療となり、かえって本人を苦しめる。

 

 

ご両親が高齢で認知症があり、肺炎をくり返していませんか?

そのため胃瘻を造ることや、積極的に点滴で栄養を入れることを考えて

食事を食べることを諦めさせられたりしていませんか?

 

もしそうだとすれば、

胃瘻を造ることや、積極的に点滴で栄養を入れる治療のデメリットと、

人生最後の食事を諦めることの意味について

しっかりと考えてみるべきです。

 

f:id:good-life-good-health:20190522124236p:plain
 

 

最初のうちは抗生剤で治る。

 

この高齢化した社会において、高齢で認知症の方は非常に多いと思います。

認知症の方は、最終的に目の前にあるものが食事だと認知する機能も低下し、

嚥下機能も低下して誤嚥をすることが多くなります。

そして肺炎になります。

 

はじめのうちは抗生剤で良くなります。

 

 

抗生剤で肺炎を一時的に治せても、原因の認知症は治せません。

 

しかし誤嚥の原因となっている認知症は現在の医学では治せません。

 

そのため、抗生剤は根本的治療にならず、

認知症の悪化とともにやがて繰り返すようになります。

そうなると治っても食事は食べられず、

最終的には唾でも誤嚥して肺炎を繰り返すようになります。

場合によっては唾で窒息して、そのまま助からない方もいます。

 

 

胃瘻や積極的な点滴治療は、本人をかえって苦しめる。

 

昔はこのように誤嚥を繰り返して、口から食事をとれない患者さんに、

皮膚に穴をあけて胃までの通り道(胃瘻)を造っていました。

そしてそこから体へ栄養を補給していました。

 

しかし胃瘻を造っても、認知症が治る訳ではなく、

嚥下機能が改善する訳ではないです。

 

点滴で栄養を補給しても、

基本的には栄養状態が以前より改善することはないです。

 

つまり、胃瘻や積極的な点滴治療で一時的に良くなったとしても

基本的な状態は大きくは変わらないため、

食事が再び食べられるようになることは基本的にないです。

 

一般的には栄養状態が徐々に悪くなって皮膚が薄くなり

やがて床ずれを生じるようになります。

 

そうなるとますます動けなくなり、栄養状態も改善はしないので、

最終的には尾てい骨のあたりの皮膚がなくなり、骨がみえる状態になります。

そしてこれによる疼痛で苦しむようになります。

 

また床ずれからの感染を繰り返して、毎日洗浄して処置をするようになります。

しかし栄養状態は改善しないので、床ずれは治らない。

本人は痛いだろうけれど、言葉を発する力もない。

 

これに加えて点滴治療の方では、

点滴の管から血管内にバイキンやカビが入ったり、

意識が混濁したまま暴れるようになったり、

かえって本人も家族も辛い体験をすることが多いです。

 

こうなると最初は会いに来てくれていた御家族も

最後は見ていられなくなり、

誰も会いに来てくれなくなります。

 

そうなると結果的には本人にとってより寂しく、辛い人生になります。

そんな生活が年単位で続くことがあります。

 

このように過度な治療が結果的に本人の苦しみの時間を長くします。

 

また当たり前ですが、

胃瘻を作ることや積極的な点滴治療のために点滴の管を入れること自体も

本人にとっては痛みを伴います。

 

また状態が悪い人に行うので命の危険も伴います。

 

しかし数十分でつくることができるので、

御家族が寿命であることを受け入れらない場合は

いつまでも説得するのは忙しい臨床現場では現実的ではないと考えられ、

簡単に上記のことが行われてしまう傾向にあります。

 

それでも今では少なくなりましたが、

まだ多くの地域でこのような傾向が続いています。

 

 

胃瘻は造らないようにはなってきた

 

胃瘻を造って合併症もなかった時は一時的に回復したように見えるので

「造ってよかったね」ということになるかもしれないですが、

その後の生活は上記で書いたようにかなり大変なものです。

 

一時的な苦しみを逃れるために

 後に年単位で苦しみが続くことがあるのです。

 

それを支えてあげる家族がいれば生きている意味はあるかもしれませんが、

支えもなければ、ただ苦しむ時間が延びるだけです。

 

このようなケースが多くなり、

近年は極力胃瘻を造らないようになってきました。

 

延命治療という点において、積極的な点滴治療は

大きくは胃瘻とは変わらないですが、

それでもまだ行っているところは意外に多いです。

 

 

誤嚥で食事ができなければ、基本的には寿命。

 

このことからもわかるように

若い方にたまに見られる特別な神経疾患や特別な例を除いて、

誤嚥で食事を食べられない方は寿命と考えるべきと思います。

 

そして胃瘻を造って食事摂取を諦めることは

その人の食事する機会を永遠に奪うことになります。

 

そのため私は本人が食事をしたいのであれば、

たとえ誤嚥リスクがあろうとも

本人の苦しみが少ない範囲であれば

食べさせて良いのではないかと思います。

 

「食べさせて窒息したら訴えられる。」

「誤嚥して肺炎になったら自分が殺したみたいで嫌だ。」

といった反論もありますが、

 

最期の食事の機会を奪うことは、

それ以上に罪深いことではないでしょうか。

 

もし本当に食べたら本人が辛いだけ、

という状況であれば、本人の体の負担になるだけなので

必要最小限の量の点滴でお看取りの時まで経過を見るのが最善です。

(本人の苦痛がなければ、点滴自体も本来は不要です。)

 

 

最後に

 

訴えられることに怯えず、

本当の意味で本人の尊厳が守られる社会になるように

これからも頑張って情報を提供していきたいと思います。

 

そしてこの情報が

今の医療の現状について考えるきっかけとなって、

人生の最後の瞬間までより人間らしく過ごせる社会を築く

一助になることを願っています。

 

 

 

 

スポンサーリンク