Doctor’s health log(内科医の視点)

総合病院の内科医師が実際の体験を通して健康回復・維持・増進の方法を紹介する雑記ブログ。

【医療ミス?】「手術が上手ければ合併症は起こらない」は間違い。手術をすれば必ず一定の割合で合併症・後遺症が起こる【大腸がん/縫合不全/腸閉塞/創感染/排便機能障害/排尿障害/性機能障害】

手術の時に、合併症について説明されますが、

「執刀医が上手ければ合併症なんて起こらない」

「手術後に合併症や後遺症が起こるのは、医療ミス。」

「医療ミスの免罪符として、同意書を書かせている。」

と考えている方はいませんか?

 

今回は、大腸がんを例にして

術後に起こりうる合併症や後遺症について

書いていきます。

 

 

 

手術後の合併症

 

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TV番組で名医と呼ばれるドクターが現れたり、

ドクターXで「私は失敗しませんので」という女優の発言があったりして

「手術は技術があれば合併症は起こらない。

合併症が起こるのは執刀医のミスだ。」

と考えている方はいませんか?

 

残念ながら、手術自体が成功したとしても、

その後の患者さんの体の反応によって

必ず一定の割合で合併症が起こります。

 

これはどれだけ手術の上手い医師が治療を行っても

その可能性を0にすることはできません。

 

比較的頻度の高い合併症として、

縫合不全、腸閉塞、創感染があります。

 

 

縫合不全

 

手術で縫い合わせた腸が上手くつかないことを縫合不全と言います。

その結果、便がお腹の中に漏れてしまいます。

すると便が漏れた場所で腹膜炎を起こします。

 

症状としては、発熱、腹痛が出現することになります。

 

直腸がんの手術の場合は約5%、

直腸がん以外の大腸がんであれば約1.%の頻度で発生します。

 

軽症の場合は、食事を止めて腸を安静に保つことで治ります。

しかし、重症の場合は再手術が必要になります。

 

 

腸閉塞

 

手術を受けると、麻酔の影響や、お腹を開けた際に

腸が外気に触れることにより、

腸の動きがしばらく悪くなることがあります。

 

これにより、おならや便が出なくなります。

これが腸閉塞と呼ばれる状態です。

 

通常は手術をして数日で腸が動き出し、

おならや便が出るようになります。

 

このような経過であれば問題はありませんが、

腸の動きがなかなか回復せず、ガスや便が腸にたまり

お腹がパンパンになることがあります。

 

その結果、吐き気・嘔吐といった症状が出ます。

 

このような場合は、鼻から腸までチューブを入れて

たまった腸液やガスを外に出し、腸を安静にして

腸閉塞が治るのを待ちます。

 

これで良くならない場合は、腸閉塞を治すために

手術を行うこともあります。

 

最近は治療技術の進歩により、チューブを挿入したり、

再手術が必要になるほどの重度の腸閉塞は

かなり減っています。

 

また手術を行うと、しばらくして傷が治る過程で癒着が必ず生じます。

人によってはこの癒着が悪さをして

術後しばらくしてから、癒着による腸閉塞を起こすことがあります。

 

 

創感染

 

創感染とは、お腹の傷口に菌が感染することで、

傷口が化膿することを言います。

 

約10%の頻度で起こります。

 

この場合は、縫い合わせた皮膚を少し開き、

膿を体外に出すことで治療します。

 

 

手術後の後遺症

 

上記の合併症は基本的に治りますが、

手術を受けたことによって止むを得ず症状が残ってしまうものがあり、

それを後遺症と呼びます。

 

直腸がん以外の大腸がんの手術では後遺症が残ることはほとんどありませんが、

直腸がんの手術では、次のような後遺症が残ることがあります。

 

 

排便機能障害

 

直腸がんの手術では、直腸が切除されるため

便をためるスペースが少なくなり、

排便回数が増えたり、便失禁になってしまうことがあります。

 

多くの場合、症状は数ヶ月〜数年かけて次第に改善されていきます。

 

便失禁で悩まされているときのセルフケアの1つに、

「肛門をギュッと締めて緩める」ことを繰り返す

骨盤底筋体操があり、排便機能の回復に役立ちます。

100回ずつを1日2〜3セット行うことをお勧めします。

 

下痢状の便になり、排便回数が多い時は、

薬物療法が有効です。

 

排便機能障害がひどい場合は、

人工肛門(ストーマ)を作って肛門を縫い閉じる方法で

対処しなければならないこともありますが、

そこまでひどい排便機能障害になることはまれです。

 

また仙骨神経刺激装置の植え込みという治療法もあると言われています。

これはペースメーカーのような機器を植え込み、

仙骨神経を電気的に刺激することで便失禁を改善させる方法です。

 

直腸がん以外の大腸がんの手術後であっても、

しばらく間、排便の回数が増えることがありますが、

次第に減っていきます。

 

 

排尿障害

 

直腸の周囲には排尿機能を司る自律神経があります。

手術でその神経を傷つけてしまうことが原因で、

尿意が分からなくなり膀胱が尿でパンパンになったり、

尿を出しきる力が衰えて膀胱の中に尿が残ってしまうことがあります。

 

手術は自律神経を傷つけないように注意して行われますが、

ある一定の確率で排尿障害が起きてしまいます。

 

軽い排尿障害であれば薬物療法で改善させることができます。

 

薬物療法だけでは十分でないときには、

自分でカテーテルという細い管を尿の出口から膀胱まで入れて、

膀胱にたまっている尿を外に出す処置が必要になります。

これを自己導尿といいます。

 

自己導尿が必要になってしまっても、

多くのケースで次第に排尿障害は改善して

自己導尿を継続する必要がなくなります。

 

また排尿障害にも

仙骨神経刺激装置が有効と言われています。

 

 

性機能障害

 

直腸の周囲には性機能を司る骨盤内自律神経があります。

手術の際にその神経を傷つけてしまうことが原因で、

性機能障害が出現することがあります。

 

男性の性機能障害としては、

勃起障害と射精障害があります。

 

勃起障害では、勃起が不十分になるために

性交が行えなくなります。

 

射精障害では、勃起はできますが、

体外ではなく膀胱内に射精してしまいます。

 

女性の性機能障害は、

性交時に痛みが出ることがあります。

 

ストーマになったことによる心理的ストレスにより

性生活が障害されることもあります。

 

近年は安全な手術技術の普及や腹腔鏡手術により

良好な視野を確保して手術ができ、

骨盤内自律神経の損傷は減ってきています。

 

その結果、手術後の性機能障害で悩まされる人は

減っています。

 

 

手術の合併症や後遺症を減らすために患者側ができること

 

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「避けられない合併症や後遺症を減らすために、

患者として出来ることは何かないですか」

という質問をよく聞きます。

 

できることとしては以下のようなものが考えられます。

 

・より早期の発見

・禁煙

・肥満の改善

 

その他、糖尿病などの基礎疾患のコントロールが大切です。

また手術前の検査によって新しくみつかる病気のこともあるので、

最終的には主治医に確認することも大切です。

 

病変が切除しやすく、体がより健康な状態であれば、

手術は行いやすく、術後の回復しやすく、

結果として合併症や後遺症は生じにくくなります。

 

 

最後に

 

「私、失敗しませんので」という言葉がドラマでは普及しましたが、

手術自体は失敗しなくても、患者さんの体の中で様々な反応を起こし

合併症は必ず一定の割合で起こります。

 

そのため、どれだけ技術が優れた医師が手術をしても

合併症や後遺症をゼロにすることはできません。

 

ただその確率を少しでも下げるために

定期的に検査を行ったり、症状があった時は早めに受診することで

より早期に病気を発見できるようにしていき、

普段から少しでも健康的な体作りをしていくことが大切です。

 

特に大腸がんについては、定期的な検査、

つまり大腸カメラを定期的に受けることが最も重要です。

 

この記事で手術の合併症や後遺症について理解が深まり、

定期的な検査を受けて早期発見に努めたり、

普段から健康な体作りをされる方が増えることを願っています。

 

 

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